アルミの調質や質別とは?記号の意味、安定化処理、溶体化処理、焼き戻しも解説

アルミ板 解説

アルミニウムの調質や質別は、アルミ材料の物理的特性や加工性を調整するための方法や分類のことです。

調質(Temper)とは

調質とは、アルミ合金に熱処理や加工をして、必要な強度、硬さ、延性、耐久性を加えるための工程、その結果の状態のことです。調質はアルファベットと数字で表記され、次のように分類されます。

調質記号の分類

F (As-Fabricated)

加工直後のままの状態で、特定の熱処理や冷間加工をしていない状態です。機械的性質が規定されていない場合に使われます。

O (Annealed, Recystallized)

焼鈍処理(アニーリング)された柔らかい状態で、加工性が高くて延性も良好です。たとえば、深絞り加工などに適しています。

H (Strain-Hardened)

冷間加工により硬化した状態を示します。「H」に続く数字で、具体的な硬化状態や処理内容を示します。

H1: 冷間加工のみ。
H2: 冷間加工後に部分的に焼鈍処理。
H3: 冷間加工後に安定化処理。
H4: 冷間加工後に塗装処理。

T (Thermally Treated)

熱処理によって強度を調整した状態です。Tの後に続く数字で、具体的な熱処理プロセスを示しています。

T4: 溶体化処理(Solution Heat-Treated)後に、自然時効する。
T6: 溶体化処理後に人工時効(強度を上げるための加熱)する。
T73: 溶体化処理後に過時効(応力腐食割れを抑える)する。

質別 (Alloy Designation) とは

質別とは、アルミ合金の種類を示すもので、4桁の数字(JISやAA基準)で表記されます。アルミ合金の組成や特性がわかります。

質別記号の意味

アルミニウム合金の4桁の番号は、以下のように分類されます。

1000系 (純アルミニウム系)

例: 1050, 1100

純度99%以上のアルミニウムで、耐食性や熱伝導性が非常に高い。強度は低いが、加工性に優れている。

2000系 (Al-Cu合金系)

例: 2024

銅を主成分とする合金で、高い強度を持つ。耐食性はやや劣るが、航空宇宙分野でよく使われる。

3000系 (Al-Mn合金系)

例: 3003, 3105

マンガンを主成分とする合金で、耐食性が高く加工性も良い。屋根材や配管に使用。

4000系 (Al-Si合金系)

例: 4032

ケイ素を主成分とする合金で、耐摩耗性が高く、エンジン部品や工具に利用される。

5000系 (Al-Mg合金系)

例: 5052, 5083

マグネシウムを主成分とする合金で、耐食性が非常に高く、海洋構造物や輸送機器に用いられる。

6000系 (Al-Mg-Si合金系)

例: 6061, 6063

マグネシウムとケイ素を主成分とする合金で、加工性と強度のバランスが良い。建築材や自動車部品に多用。

7000系 (Al-Zn合金系)

例: 7075

亜鉛を主成分とする合金で、非常に高い強度を持つ。航空機やスポーツ用品に利用。

質別と調質の組み合わせ

アルミ製品には、質別と調質を組み合わせて表記することになっています。

6061-T6: 6000系のアルミニウム合金で、溶体化処理と人工時効が施され、高い強度と耐久性を持っている。

5052-H32: 5000系の合金で、冷間加工後に部分焼鈍された中硬度の状態。

具体例と用途

1100-H14: 純アルミニウムで中程度の硬さを持っていて屋根材や容器に使用される。

7075-T73: 高強度で応力腐食割れが少ないため、航空機のフレームに使われる。

安定化処理(Stabilization Treatment)とは

安定化処理は、アルミ合金の特性を長期間安定させるために行われる熱処理プロセスのことです。

5000系(Al-Mg)合金は、時間が経つにつれて発生する「応力腐食割れ」や「時効硬化」を防ぐために用いられます。

処理の目的

冷間加工による内部応力を低減し、製品の寸法安定性を向上させる。長期間の使用でも特性(強度や耐食性)が劣化しないようにする。応力腐食割れの発生を抑える。

具体的な処理方法

低温加熱(通常100~200°C程度)を一定時間行って、マグネシウム含有量の高い合金内部の構造を安定化させます。この処理によって合金内の応力が緩和され、耐食性と寸法安定性が向上します。

(例)

5052-H32: 冷間加工後に部分焼鈍処理(安定化処理)を施して、中硬度の状態とする。

用途: 船舶や輸送機器、タンクなど、長期間安定した性能が求められる製品。

溶体化処理(Solution Heat Treatment)とは

溶体化処理は、アルミ合金を高温に加熱して均一な固溶体を形成し、急冷することで特定の性質(強度、耐久性)を向上させる熱処理です。2000系、6000系、7000系などの時効硬化型合金に用いられます。

処理の目的

合金成分(銅、マグネシウム、亜鉛など)をアルミの結晶内に均一に分散させ、強度の基盤を作る。

溶体化処理の後に「時効処理」を行うことで、最終的な強度や硬さを得る。

具体的な処理方法

高温加熱

合金を一定の高温(通常450~550°C)まで加熱し、金属内部の微細な析出物(第二相)を溶解させます。

急冷

高温状態から急激に冷却(水冷やエア冷)することで、均一な固溶体を保持します。この状態を「過飽和固溶体」と呼びます。

時効処理

溶体化処理の後、自然時効(常温で放置)または人工時効(中温で加熱)を行って析出硬化を引き起こして最終的な強度を得ます。

(例)

6061-T6:

溶体化処理(Solution Heat Treatment)後、人工時効処理(Aging Treatment)を行い、高強度と耐食性を実現。

用途: 建築材料、航空部品、自動車部品。

2024-T4:

溶体化処理後、自然時効で硬化させたもの。

用途: 航空機構造部材、スポーツ用品。

焼鈍処理(Annealing)とは

焼鈍処理は、アルミに熱処理を施して材料を柔らかくして内部応力を除去するためのプロセスです。この処理により、加工性や延性が向上し、冷間加工や成形加工がしやすくなります。主に深絞り加工、曲げ加工、プレス加工などが必要な場合に使用されます。

焼鈍処理の目的

内部応力の除去

加工や溶接などの工程で発生した残留応力を緩和し、材料の寸法安定性を高めます。

硬さの低減

材料を柔らかくすることで、次の加工を容易にします。

延性の向上

アルミニウムの割れやすさを減らし、曲げや絞り成形時の破損リスクを低減します。

結晶構造の改善

加工によって乱れた結晶構造を整え、金属の均一性を高めます。

焼鈍処理の具体的な工程

加熱

アルミニウムを通常300~400°C程度まで加熱します(合金の種類によって温度は異なる)。温度が高すぎると材料が過度に軟化したり、組織が変化しすぎるため、適切な温度管理が重要です。

保持

加熱後、その温度で一定時間(数十分~数時間)保持します。これにより、内部応力が均一に除去され、結晶構造が整います。

徐冷(緩慢冷却)

徐冷(炉冷)が一般的で、温度を徐々に下げながら材料の均一性を保ちます。急冷は行いません。

焼鈍処理後の特性

材料は非常に柔らかくなり、加工性が向上。
強度は低下しますが、次工程での加工が容易に。
応力が取り除かれるため、寸法安定性が高まる。

焼鈍処理の適用例

深絞り加工に使用する板材

例: 飲料缶、鍋、容器など。
冷間加工が必要な部材

配管材料や熱交換器など、曲げや延ばしの加工が行われる部品。
航空機や建築材料

形状変更が求められるアルミ構造部材。
純アルミニウム(1000系)

例: 1100-O(Oは焼鈍処理を表す調質記号)
加工性に優れ、屋根材や容器などに使われる。

焼鈍処理は、材料を柔らかくするために最も広く用いられる熱処理技術の一つであり、製造プロセスの中で重要な役割を果たします。用途や合金の特性に合わせて適切に実施することで、製品の品質や加工効率を向上させることができます。

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