ジュラルミンとはA7075のアルミや超ジュラルミンと違うの?価格は?

A2017とA5052の違いについて強度、耐食性、切削加工性及び溶接性 解説

ジュラルミンというとなんとなく聞いたことがある方も多いと思いますが、詳細や他のアルミニウム合金や鉄との違いについてはあいまいだと思います。ジュラルミンとは何か、そして超ジュラルミンやA7075といった高性能アルミニウム合金との違い、さらに特性や価格について解説します。

ジュラルミンとは

ジュラルミンは、ドイツで開発されたアルミニウム合金であり、その名称は開発地の「Duren」に由来しています。今は、アルミニウムに銅(Cu)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)などを添加したAl-Cu-Mg系合金の総称として使われることが多く、特にJIS規格では「A2017」が一般的なジュラルミンとなっています。

ジュラルミンの特徴は、アルミ合金の中でも高い強度を持つことです。熱処理である溶体化処理や時効処理によって、銅原子がアルミニウム中に析出して結晶の滑りを妨げることで硬度と強度を増しています。比強度(密度あたりの強度)では、鋼に匹敵する、あるいは上回る場合もあり、軽量化と高強度を両立できる素材としてな分野で活用されています。

溶体化処理とは

金属材料を高温に加熱して特定の成分を均一に溶かし込み、その後急冷することで、材料の組織を改質する熱処理のことです。

時効処理とは

金属材料を特定の温度で保持し、時間の経過とともに材料の内部構造を変化させることで、機械的性質を改善する熱処理のことです。

ジュラルミンの用途

ジュラルミンは高い強度と軽量性によって、いろいろな分野で利用されています。代表的な用途としては次のものがあります。

航空宇宙産業

航空機の機体構造材、翼、リベットなどに使用されます。軽量であることは燃費向上に寄与し、高い強度は安全性を確保するために不可欠です。

自動車産業

レーシングカーの部品、高級車のサスペンション部品、ホイールなど、軽量化と高強度が求められる箇所に採用されます。

鉄道車両

新幹線などの高速鉄道車両の構体の一部に使用され、軽量化と高剛性に貢献しています。

自転車部品やカメラのフレーム

フレーム、リム、クランクなど、軽量で丈夫な部品が求められるスポーツ自転車に広く利用されています。

スポーツ用品

テニスラケット、野球のバット、登山用品など、軽量性と耐久性が求められる製品に採用されます。

電子機器

スマートフォンやノートパソコンの筐体、カメラのボディなど、薄くて丈夫な素材が求められる製品にも使われることがあります。

産業機械

精密機械部品、ロボット部品など、軽量化と高精度が要求される分野でも利用されます。

3.ジュラルミンとA7075の違い

ジュラルミン(A2017)とA7075は、どちらもアルミニウム合金ですが、その組成と特性には明確な違いがあります。

特徴ジュラルミン (A2017)A7075
主要添加元素銅 (Cu)、マグネシウム (Mg)、マンガン (Mn)亜鉛 (Zn)、マグネシウム (Mg)、銅 (Cu)
分類Al-Cu-Mg系合金Al-Zn-Mg-Cu系合金
強度高い非常に高い (アルミニウム合金中トップクラス)
通称ジュラルミン超々ジュラルミン

A7075は、亜鉛を主要な添加元素とし、マグネシウム、銅も含むAl-Zn-Mg-Cu系合金であり、「超々ジュラルミン」とも呼ばれます。ジュラルミン(A2017)と比較して、さらに高い引張強度と降伏強度を持ち、アルミニウム合金の中で最も高い強度を持つものの一つとして知られています。

A7075は、航空機の主構造材や高応力がかかる部品など、極めて高い強度が要求される用途に用いられます。一方、ジュラルミン(A2017)は、A7075ほどではないものの十分な強度と優れた被削性を持つため、幅広い用途で利用されています。

ジュラルミンと超ジュラルミンの違い

「超ジュラルミン」とは、ジュラルミン(A2017)よりもさらに強度を高めたアルミニウム合金の通称であり、JIS規格では「A2024」がこれに該当します。

特徴ジュラルミン (A2017)超ジュラルミン (A2024)
主要添加元素銅 (Cu)、マグネシウム (Mg)、マンガン (Mn)銅 (Cu)、マグネシウム (Mg)、マンガン (Mn)
分類Al-Cu-Mg系合金Al-Cu-Mg系合金
強度高いより高い (A2017より強度向上)

超ジュラルミン(A2024)は、ジュラルミン(A2017)と同様にAl-Cu-Mg系の合金ですが、銅やマグネシウムの含有量を調整することで、A2017よりも強度を向上させています。特に、疲労強度に優れるという特徴があり、航空機の翼や胴体、リベットなど、繰り返し応力がかかる部分に多用されます。

ジュラルミン(A2017)は基本的なジュラルミン、超ジュラルミン(A2024)はA2017よりも高強度なジュラルミン、そして超々ジュラルミン(A7075)はアルミニウム合金の中で最高クラスの強度を持つ合金という順番になります。

ジュラルミンと鉄との強度比較

ジュラルミンは「鉄に匹敵する強度を持つ」と言われることがありますが、これは「比強度」という概念で理解する必要があります。

引張強度

一般的に、普通鋼の引張強度が約300~600 MPaであるのに対し、ジュラルミン(A2017)の引張強度は約400~450 MPa程度です。A7075などの超々ジュラルミンになると、500~600 MPaを超えるものもあります。単純な引張強度だけを比較すると、一部の鋼種には及ばない場合もあります。

密度

鉄の密度が約7.85 g/cm3であるのに対し、アルミニウム合金は約2.7~2.8 g/cm3と、約1/3程度です。

比強度

比強度とは、「引張強度を密度で割った値」であり、材料の軽さに対する強さを示す指標です。ジュラルミンや超々ジュラルミンは、密度が低いため、引張強度を密度で割ると、普通鋼の比強度を上回ることが多くなります。

例えば、引張強度450 MPaのジュラルミン(密度2.8 g/cm3)の比強度は約161 MPa・cm3/g となります。一方、引張強度500 MPaの普通鋼(密度7.85 g/cm3)の比強度は約64 MPa・cm3/g です。この比強度の比較により、ジュラルミンが「軽量で高強度」な材料であることが理解できます。この特性が、航空機や自動車など、軽量化が直接性能向上に繋がる分野でジュラルミンが重宝される理由です。

ジュラルミンと腐食

ジュラルミンは、アルミ合金であるため、純粋なアルミニウムと同じく表面に酸化被膜を形成して、腐食から母材を保護しますが、ジュラルミンの主要添加元素である銅は、アルミニウムよりも電位が貴であるため、水溶液中ではガルバニック腐食(異種金属接触腐食)を起こしやすくなります。

特に、塩化物イオンがある環境(海水、塩害地域など)では、この酸化被膜が破壊されやすく、粒界腐食や応力腐食割れといった特定の腐食形態に弱点を持つことがあります。粒界腐食は、金属の結晶粒界に沿って腐食が進行する現象で、強度低下を引き起こします。応力腐食割れは、引張応力と特定の腐食環境が同時に作用することで、材料が割れる現象です。

このため、ジュラルミンを使用する場合は、耐食性を向上させるための対策が取れられます

ガルバニック腐食とは

ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)とは、異なる種類の金属が接触した状態で、電解質(水や塩水など)が存在する環境下で、一方の金属の腐食が促進される現象です。

表面処理

アルマイト処理(陽極酸化処理)は、人工的に厚い酸化被膜を形成することで、耐食性を大幅に向上させます。

アルマイト処理とは

アルミニウムの表面に人工的に酸化皮膜を生成させる表面処理のことです。これにより、アルミニウムの耐食性や耐摩耗性が向上し、装飾的な外観も付加できます。

塗装

表面に塗膜を形成することで、環境からの隔離と保護を行います。

適切な環境での使用

塩分濃度が高い環境や酸性の環境下での使用は避けるか、厳重な防食対策が必要です。

異種金属との接触回避

鉄や銅など、電位の異なる金属との直接接触は、ガルバニック腐食を誘発するため避けるべきです。必要に応じて絶縁材を挟むなどの対策が取られます。

ジュラルミンと加工

ジュラルミンは、その強度と同時に優れた加工性を持つことも特徴の一つです。

切削加工

ジュラルミン(A2017)は、特に被削性に優れているとされており、高速度で高精度な切削加工ができます。切削抵抗が低くて切り屑処理がしやすい特性があるためです。複雑な形状の部品や高精度が要求される部品の製造に適しています。A7075も切削性は良好ですが、A2017よりは硬度が高いため、工具の摩耗が激しくなります。

塑性加工

プレス加工、曲げ加工、引抜き加工などの塑性加工もできますが、強度が高い分、純アルミニウムや他の軟質なアルミ合金に比べて加工にはより大きな力が必要となり、加工硬化も生じやすいため、場合によっては熱処理と組み合わせることもあります。

鍛造加工

高強度部品の製造には、鍛造加工も用いられます。鍛造によって結晶組織が微細化され、強度や靭性が向上します。

加工においては、専用の切削油の使用や適切な切削条件の選定が、加工精度や工具寿命の維持に重要となります。

ジュラルミンと溶接

ジュラルミン(A2017)や超ジュラルミン(A2024)、超々ジュラルミン(A7075)といったAl-Cu系やAl-Zn-Mg-Cu系合金は、溶接性が悪いとされています。

熱影響による強度低下

溶接の際に高温にさらされると、時効硬化によって形成された析出物が粗大化したり、固溶したりすることで、溶接熱影響部(HAZ)の強度が著しく低下します。これは、析出硬化型合金の宿命とも言えます。

溶接割れ

銅や亜鉛の含有量が多いと、溶接時に凝固割れが発生しやすくなります。特にA7075は、溶接割れ感受性が高いとされています。

気孔の発生

アルミニウムは溶融状態で水素を吸収しやすく、冷却時に水素ガスが放出され、溶接部に気孔(ポロシティ)が発生しやすい性質があります。気孔は溶接部の強度を低下させますので、高強度を維持する必要があるジュラルミンの部品では、溶接よりもボルト締め、リベット接合、接着などの機械的接合がおおくなります。

溶接が必要な場合は、次のような対策が取られます。

TIG溶接、MIG溶接

不活性ガス雰囲気下で行うTIG溶接やMIG溶接が一般的です。

TIG溶接(ティグ溶接)は、タングステン電極と不活性ガス(アルゴンやヘリウムなど)を使用して行うアーク溶接の一種です。溶接部分を不活性ガスで覆うことで、酸化や不純物の混入を防ぎ、高品質な溶接ができます。

MIG溶接(ミグ溶接)とは、アーク溶接の一種でシールドガスに不活性ガス(アルゴンやヘリウムなど)を使用して溶接を行う方法です。不活性ガスが溶接部を大気から遮断し、酸化や窒化を防ぐことで、高品質な溶接ができます。

適切な溶加材の選定

溶接割れを抑制するために、母材とは異なる組成の溶加材(フィラーワイヤ)を使用することがあります。A2017やA7075の溶接には、溶接割れ感受性の低いA4043(Al-Si系)やA5356(Al-Mg系)などが用いられることがあります。

溶接後の熱処理

溶接によって低下した強度を回復させるために、溶接後に再度溶体化処理や時効処理を行うことがありますが、複雑な形状の部品では困難な場合もあります。

ジュラルミンの価格

ジュラルミンの価格は、純アルミニウムや他の一般的なアルミニウム合金と比較して高価になる傾向があります。

添加元素のコスト

銅、マグネシウム、マンガン、亜鉛といった高価な添加元素が含まれているため、材料費が高くなります。

製造工程の複雑さ

高強度を得るための熱処理(溶体化処理、時効処理)が必要であり、製造工程が複雑になるため、コストが増加します。A7075のような超々ジュラルミンは、より厳密な品質管理と製造技術が求められるため、さらに高価になります。

需要と供給

高性能な材料であるため、需要がある一方で、特殊な用途に限られるため、生産量が一般的なアルミニウム合金ほど多くないことも値段に影響します。

具体的な価格は、購入量、形状(板、棒、パイプなど)、厚み、表面処理の有無、供給元によって大きく変動します。

目安ですが、一般的な加工用の純アルミニウムやA6063(建築用)と比較すると、ジュラルミン(A2017)は1.5倍~3倍程度、A7075(超々ジュラルミン)は2倍~5倍以上の価格になることがあります。

例として、アルミニウム合金の板材(定尺)を少量購入する場合のキログラムあたりの価格は、大まかに以下の範囲に収まることが多いです。

  • 純アルミニウム (A1050/A1100): 500円~1,000円/kg
  • A5052 (汎用性の高い中強度合金): 800円~1,500円/kg
  • ジュラルミン (A2017): 1,500円~3,000円/kg
  • 超々ジュラルミン (A7075): 2,500円~5,000円/kg以上

これらの価格はあくまで参考であり、市場の変動や為替レート、小ロットなど購入ロット数によって大きく変わることがあります。

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