鉄鋼とアルミニウムは、日本の社会を支える基幹材料ですが、その流通形態は業界のサプライチェーンと価格形成に関係しています。2つの業界における主要な販売形態である「店売り販売」と「ひも付き販売」について、違いや価格決定メカニズム、さらには、両業界間の特性差について詳しく解説します。
店売り販売とは
店売り販売とは、一般的に「市中品販売」「小売り販売」や「スポット販売」とも呼ばれていて、メーカーが出荷した製品が、特定の需要家と直接契約を結ぶことなく、商社や流通業者(コイルセンター、厚板加工業者など)を通じて市場に流通して、中小規模の需要家に対して販売されることです。
・価格変動が激しい
市況連動で価格が変わりやすく、納期が早い代わりに単価は高めです。
・多品種小ロットに対応
建築資材、機械部品など、多様な業界のニーズに応えます。
・サービス重視
切断・加工・納品のスピードなど、付加価値で差別化が図られています。
価格決定
店売り価格は、基本的に需給バランスによって変動します。市場の需要が高ければ価格は上昇して、供給過剰であれば下落します。投機的な動きや市況心理も価格に影響を与えやすい特徴があります。鉄スクラップ価格や海外市況(中国市場)の動向も、店売り価格に大きな影響を与える要因です。

ひも付き販売とは
ひも付き販売とは、メーカーと自動車メーカー、家電メーカー、造船会社、大手建設会社などの特定の最終需要家が、長期的な契約に基づいて直接的に製品を供給することです。
「契約販売」とも呼ばれています。例えば半年や1年などの一定期間の契約で、価格もその期間で固定、あるいは特定の地金などの指標に連動して改定されるといった契約がされます。
・長期契約・安定供給が基本です。
・価格は個別契約ベース
市況とは異なる契約価格が設定されることが多いです。
・数量が大きい
主に自動車、造船、電機など大手メーカー向けが多い。

価格決定
ひも付き価格は、メーカーと需要家間の交渉によって決定されます。交渉では、原材料価格(鉄鉱石、コークス、アルミ地金など)、燃料費、物流費、人件費、為替レート、さらにはメーカーの生産コスト、需給見通し、そして需要家の生産計画などが総合的に考慮されます。
多くの場合、市況価格の変動は、交渉時の重要な参考指標となりますが、短期的な変動が直接的に価格に反映されることは少なくなります。
店売り販売とひも付き販売の違い
項目 | 店売り販売 | ひも付き販売 |
---|---|---|
対象 | 中小規模の需要家、短期的な需要 | 大口の需要家、長期的な需要 |
契約形態 | スポット、都度取引 | 長期契約(半年~1年など) |
価格決定 | 需給バランス、市況、投機 | メーカー・需要家間の交渉、原材料費、生産コストなど |
価格変動 | 大きい、変動が頻繁 | 小さい、比較的安定 |
納期 | 短納期、即納性重視 | 長期的な計画に基づいた納期 |
数量 | 少量多品種に対応 | 大量、定型品の供給 |
リスク | 価格変動リスク、品薄リスク | 契約数量消化リスク |
鉄鋼とアルミとの違い
鉄鋼とアルミは、それぞれ異なる特性を持つため、販売形態や価格メカニズムにも違いがあります。
鉄鋼業界
鉄鋼製品は、厚板、薄板、棒鋼、H形鋼など多岐にわたった多様な製品群があり、それぞれ用途や流通経路が異なります。
ひも付き販売の比率が高いのが特徴です。自動車、造船、建築といった大手需要家向けには、安定供給を重視するため、ひも付き販売の比率が高いのが特徴です。日本製鉄やJFEスチールといった高炉メーカーは、需要家との長期的な関係構築を重視します。
店売り市場の重要性については、中小の建設業や加工業者、金型業など、多種多様なニーズに応えるために、商社や流通業者を通じた店売り市場も活発です。
店売り価格は、高炉メーカーの生産調整や市況、海外の需給動向に敏感に反応します。鉄スクラップ価格も、電炉メーカーの生産コストに直結するため、店売り価格に影響を与えます。
原材料(鉄鉱石、コークス)価格の国際市況、為替、物流費、環境規制なども価格交渉に影響を与えるため、ひも付き価格の決定は複雑になっています。
アルミ業界
国際市場の影響が大きくなっています。アルミ地金はロンドン金属取引所(LME)で取引されており、国際市況がダイレクトに国内価格に影響を与えます。国内の圧延メーカーや押出メーカーは、このLME価格を基準に加工賃を上乗せする形で販売価格を決めます。
自動車部材や建材、飲料缶といった大手需要家向けには、鉄鋼と同様にひも付き販売が行われますが、地金価格が国際市況に強く連動するため、契約期間中も地金価格の変動分を価格に転嫁する「LMEスライド条項」が盛り込まれることが一般的です。
建築用サッシやアルミ箔、日用品など、多岐にわたる用途を持つため、流通業者を介した店売り販売も活発です。加工業者や問屋は、LME価格や加工賃の動向を見極めながら、小口の需要家に対して販売します。
アルミの大きな特徴である軽さとリサイクル性は、自動車の燃費向上や環境負荷低減といったニーズと結びつき、需要を喚起しています。
鉄鋼の国内流通経路
鉄鋼製品の国内流通経路は、製品の種類や需要家の規模によって多岐にわたります。
・高炉メーカー・電炉メーカー → 大手需要家(ひも付き)
自動車メーカー、造船会社、大手建設会社、家電メーカーなどに対し、直接供給される最も基本的な経路。長期契約に基づく安定供給が特徴です。
・高炉メーカー・電炉メーカー → 商社 → 大手需要家(ひも付き・一部店売り)
商社が介在することで、メーカーは販売網を拡大し、需要家は複数のメーカーからの調達や決済の一元化が可能になる。ひも付き契約が大半だが、一部スポットでの供給もあります。
・高炉メーカー・電炉メーカー → 商社 → コイルセンター・厚板加工業者 → 中小需要家(店売り)
コイルセンターは、メーカーから仕入れたコイルを需要家のニーズに合わせて切断・加工します。厚板加工業者は厚板の切断や溶接を行います。これらの加工業者は、中小規模の建設業、機械メーカー、金型業などに対して、多様な製品を少量から供給する店売りの中心的な担い手となります。
・高炉メーカー・電炉メーカー → 商社 → 鉄鋼流通業者(問屋) → 最終需要家(店売り)
鉄鋼流通業者は、様々な鉄鋼製品を在庫し、多種多様な需要家からの小口注文に対応します。地域に密着した販売網を持ち、即納性を重視します。
アルミの国内流通経路
アルミ製品の国内流通経路も、鉄鋼と同様に多様ですが、国際地金市況の影響が大きくなります。
・地金メーカー → 圧延メーカー・押出メーカー(加工用)
海外の地金メーカーからLMEに連動した価格で地金が供給される。国内の圧延メーカーや押出メーカーは、この地金を加工して板、棒、形材などを製造します。
・圧延メーカー・押出メーカー → 大手需要家(ひも付き)
自動車メーカー、建材メーカー、飲料缶メーカーなどに対し、直接供給されます。LMEスライド条項付きのひも付き契約が一般的です。
・圧延メーカー・押出メーカー → 商社 → 大手需要家・中小需要家(ひも付き・店売り)
商社が介在することで、メーカーは販売網を強化し、需要家は複合的な調達が可能になります。中小需要家向けの店売りでは、商社が重要な役割を果たします。
・圧延メーカー・押出メーカー → 商社 → アルミ加工業者・問屋 → 最終需要家(店売り)
アルミ加工業者は、板や形材を切断、曲げ、溶接などの加工をして、顧客のニーズに合わせた製品を提供します。アルミの問屋は、多品種のアルミ製品を在庫して、小口の需要家に対して即納体制で販売しています。建築サッシ業、看板業、機械部品加工業など、幅広い分野に供給されています。
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