窒化アルミニウムは、人工的に製造されるアルミニウムの窒化物で、高い熱伝導率と電気絶縁性を備えたファインセラミックスです。高放熱、高絶縁性と高信頼性を兼ね備えた次世代電子材料として、半導体・LED・車載電子などで需要が増えています。
窒化アルミニウムとは
窒化アルミニウム(Aluminum Nitride:AlN)は、アルミニウム(Al)と窒素(N)からなる化合物で、セラミックスの一種です。高い熱伝導率と電気絶縁性を兼ね備えており、電子材料として優れた特性を持ちます。
一般的なアルミナなどの酸化物セラミックスに比べて、熱伝導率は約5~10倍(150~200W/m・K)に達し、しかも電気を通さないという特徴から、「高放熱・電気絶縁性材料」として注目されています。
また、熱膨張係数がシリコン(Si)に近いため、半導体素子の実装基板としても適しており、パワー半導体分野での利用が急増しています。化学的にも安定しており、酸やアルカリにも比較的強い性質を持ちます。

窒化アルミニウムの用途
窒化アルミニウムは、その高い熱伝導率、電気絶縁性、機械的強度を生かして、次の用途で使われています。
半導体パッケージ基板
SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などの高温動作パワーデバイスの放熱基板として広く使用されています。これらのデバイスは高出力・高温環境での安定性が求められるため、放熱性能が重要です。
LED基板
高輝度LEDの熱を逃がすためのサブマウント(中間基板)として利用されています。特に白色LEDや高出力照明用LEDではAlN基板が多く採用されています。
高輝度なLEDやレーザーダイオードなどの発熱デバイスの熱を効率的に処理し、性能低下を防ぎます。
通信機器・車載電子部品
5G通信モジュールやEVインバーターなど、高周波・高出力用途での絶縁放熱部材として注目されています。
高温機器部品・治具
AlNは耐熱性が高いため、真空炉用部品、プラズマ装置の部材、また金属溶解用のルツボなどでも使用されています。
窒化アルミニウムの市場規模
世界の窒化アルミニウム市場は、パワーエレクトロニクスやLED市場の拡大によって年々成長を続けています。電気自動車の普及によるパワー半導体(IGBTなど)の需要増や、高性能な電子機器の熱対策の重要性向上に支えられ、着実に成長しています。
2024年時点の推定市場規模は約10億米ドル(約1,500億円)とされ、2025年以降も年率6~8%で成長が見込まれています。
日本は、AlN粉末および焼結基板の高品質技術で世界トップクラスを維持しており、特に村田製作所や三菱マテリアルなどが先進材料分野で強みを持ちます。また、窒化アルミニウム粉末の世界市場において大きなシェア(60%以上)を占める主要市場の一つであり、技術開発と生産において重要な地位を占めています。
窒化アルミニウムのメーカー
主な窒化アルミニウム関連メーカーは次の会社になります。
日本
・株式会社デンカ(Denka)
高純度AlN粉末・焼結基板を製造。電子部品向けに強み。
・昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)
放熱基板・高信頼性材料を展開。
・京セラ株式会社
AlN基板を多層化したパッケージ製品を製造。
・東芝マテリアル株式会社
パワーモジュール用AlN基板を供給。
・三菱マテリアル株式会社
放熱基板や絶縁材料用途の焼結体を生産。
・株式会社トクヤマ
高純度窒化アルミニウム粉末の主要メーカーの一つ。
・株式会社MARUWA(丸和)
窒化アルミニウム基板、部品、フィラーを提供。
海外
CeramTec(ドイツ)
産業用セラミックスで世界大手。
CoorsTek(アメリカ)
電子・機械用セラミック部品をグローバル展開。
窒化アルミニウムの製造工程
窒化アルミニウムは主に次の工程で製造されます。
1.原料調製
高純度アルミナと炭素源(カーボンブラックなど)を混合します。
2.窒化反応(炭素還元窒化法)
窒素雰囲気下(約1,600~1,800℃)で焼成すると、次の反応が起こり、AlN粉末が生成します。
3.粉末精製・整粒
不純物を除去し、粒度を均一化します。
4.成形・焼結
AlN粉末をプレス成形後、1800~2000℃の高温で焼結して固体化します。
5.加工・仕上げ
表面研磨・メタライズ(電極形成)などを行い、基板や部材として仕上げます。
窒化アルミニウムの値段
窒化アルミニウムは高性能素材であるため、一般的なアルミナよりも高価です。
用途や形状によって価格は大きく異なりますが相場は次のとおりです。
AlN粉末(高純度品):約10,000~30,000円/kg
焼結基板(厚み0.3~1mm):約5,000~20,000円/枚
部品・加工品:数千~数万円/個・電子部品向けの高純度・高密度AlNは、製造難度が高く、需要増によって価格が上昇傾向にあります。
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