国際アルミニウム協会についてアルミのリサイクルや環境問題に貢献

解説

アルミはリサイクルやサステナビリティにおいて二酸化炭素削減で環境対策の優等生ですが、実は、IAI国際アルミニウム協会が世界的にリーダーシップを発揮していることはご存知でしょうか?

この世界の実情をぜひ、知ってもらいたいと思いアルミの地球環境への貢献の陰の立役者であるIAI国際アルミニウム協会についてかなり詳しく調べましたのでご紹介します。

(参照元)IAI国際アルミニウム協会
https://international-aluminium.org/

アルミはリサイクルやサステナビリティの優等生

アルミは品質劣化が少なく無限にリサイクルできて、CO2削減効果が高く、回収システムが確立しており、循環型社会に適合しています。

リサイクル効率(エネルギー消費)

アルミはリサイクル時のエネルギーは新規生産の約5%程度です。繰り返しリサイクルしても品質劣化がほとんどありません

鉄鋼はリサイクルできますが、スクラップから高品質な鉄を得るには多くの工程が必要になってしまいます。

銅はリサイクル性は高いですが、不純物管理が難しいのが実態です。プラスチックは多くが熱劣化し、リサイクル回数に限界があります。種類ごとの分別も難しいです。

CO2削減効果

アルミはリサイクルにより新地金生産に比べて、約95%のCO2削減が可能です。鉄はリサイクルで削減効果はあるが、電炉と高炉の違いで差が大きいです。

プラスチックは燃焼するとCO2に加えて有害物質の排出も問題になります。

回収や循環システム

アルミ缶では世界的に回収システムが整備されており、回収率は70~90%の国もあります。日本はトップクラスでほぼ100%です。

鉄では自動車や建材など大型リサイクルは進んでいますが、小型品は散逸しやすく、プラスチックは種類が多すぎて分別困難です。ペットボトル以外は回収率が低くなっています。

地球儀

国際アルミニウム協会(IAI)とは

国際アルミニウム協会(IAI: International Aluminium Institute)は、1972年に設立され、一次アルミニウム産業(ボーキサイト採掘、アルミナ製造、アルミ電解、再生金属処理・リサイクルを含む)を代表する国際団体です。本部は英国ロンドン。

IAIは、「持続可能なアルミニウム産業を将来にわたって維持する」ことをミッションとしています。

加盟企業・団体は、世界のアルミ分野の主要企業・団体で、IAI加盟企業は地球規模の生産のかなりの割合を占めています。

  • IAIの主な任務・役割としては、次のようなものが挙げられます。
    • 業界データ収集・統計発表・モニタリング
    • サステナビリティ・環境性能改善に関するガイダンス策定・ベストプラクティス共有
    • 業界横断・国際協調プロジェクトの推進・政策提言
    • アルミ素材の持続可能性・循環性の広報・理解促進

また、「Industry Sustainability(産業の持続可能性)」「Recycling(再利用/リサイクル)」「Environmental Health(環境‐健康)」を取り扱っています。

アクション1

2024年12月31日までに長期的な温室効果ガス排出削減目標(できればネットゼロ、できれば 2050 年までに)と、その目標を達成するための計画を明示します。

アクション2

早期の進捗状況を追跡できるように、温室効果ガス排出削減の中間マイルストーン(理想的には 2030 年まで)を特定します。

アクション3

すべての施設とアクション1およびアクション2の絶対排出量 (できればアクション3も) を含めた進捗状況を毎年開示します。

環境・サステナビリティにおける位置づけと目的

IAIが環境問題に強く取り組む背景や目的を、技術および素材産業の観点から整理すると、以下のような論理と目的があります。

IAIは以下のことを通じて、IAIは「アルミ業界が環境責任を果たしつつ成長していくための中枢的インフラ」として機能することを目指しています。

アルミニウムは「素材としての将来性」を持つが、環境負荷が課題

アルミは軽くて強く、耐食性・加工性が高いため、輸送(自動車や航空機)、建築、包装、電力インフラ部材(ケーブル、構造材など)など幅広い用途で使われていますが、一次電解(鉱石からのアルミ生産、Hall-Heroult法など)は極めてエネルギー消費が激しく、電力起源のCO?排出、アノード消費による炭素排出、フッ化物排出など環境・公害リスクを伴う工程もある。

さらに、廃スクラップの扱いや、使用後の循環利用、廃棄物処理など、環境リスク管理すべき点が多い。

脱炭素・循環経済への世界的な圧力と要求

パリ協定や国別の炭素削減目標、ESG/サステナビリティ投資、サプライチェーンのグリーン化要求など、産業素材分野にも「低炭素」であること、環境透明性を持つことが求められている。

アルミ業界は、素材選択肢としての競争力を維持・強化するために、環境性能を改めて訴求する必要がありますし、政府や規制機関から、材料のライフサイクル評価(LCA: Life Cycle Assessment)や製品環境ラベル、認証制度、炭素価格・排出取引制度、廃棄物規制などが強まっています。

業界としての信頼性と正当性の確保

個別企業が環境対策を行うだけでなく、産業集団として統一的基準・ガイドライン・透明性指標を示すことで、ステークホルダー(政府、NGO、消費者、投資家、下流ユーザーなど)との信頼構築をつくります。

世界のアルミ業界全体で目標を設定・進捗を公表することで「産業界のコミットメント」を見える化することで各国・各地域の環境政策・規制に対して、業界代表として調整・提言が可能となります。

技術革新とベストプラクティスの普及促進

低炭素技術(たとえばカーボンフリー電力電解、無炭素アノード、カーボンキャプチャ技術、セル設計改善など)を促進し、それを加盟企業間で横展開・共有するプラットフォームとして機能します。

リサイクル・循環利用技術、廃棄物処理・資源回収技術、廃棄物管理方式、スクラップ処理最適化など、既存技術・改良技術の普及を後押しします。

IAIの特徴や強み

IAIが他の産業団体や素材団体と比べて特徴的で環境対応かをまとめます。IAIは「環境問題対応のただのロビー団体」ではなく、実質的な工業素材変革を支える組織です。

グローバルな統一的視点・横断プラットフォーム

多くの国別協会や企業が環境対策をしていますが、横断的に調整・統合できる国際的な枠組みを提供しています。ホームページを見ればわかりますが、IAIはデータ収集・比較、目標設定・進捗開示、技術ロードマップ提示などグローバル基準を示す役割をしています。

長年蓄積されたデータ・モデル・予測能力

IAIは50年以上にわたるアルミ産業データ収集・分析実績を有しており、エネルギー消費傾向、GHG排出インテンシティ、地域別動向などを把握・公表しています。

透明性と報告義務を促す制度

COP28で「Aluminium Industry GHG Initiative」を立ち上げ、加盟企業に長期目標設定・中間マイルストーン設定・年次報告義務を課すフレームワークを策定。

循環性重視・リサイクル指向

アルミという素材本来的な強みである「リサイクル性」を前面に打ち出して、“鉄鋼などと異なり劣化なしに再生可能”という素材優位性を環境面で訴求。

政策・市場インセンティブ連携

IAIは、国際気候交渉(COP等)、産業技術プログラムなどにも関与しており、アルミ産業が政策側面で包摂されるよう働きかけている。

主な施策・活動・プログラム

IAIが進めている環境・サステナビリティ関連の主要施策です。

GHG 排出削減/脱炭素

2023年COP28で発表。加盟企業に対して、長期目標(可能なら2050年net-zero)、中間マイルストーン(例2030年)、年次進捗報告を義務付け。IAI自身も世界アルミ産業全体のGHG排出を年次報告。

技術ロードマップ・シナリオ分析“Aluminium Sector Greenhouse Gas Pathways to 2050” など、複数の技術経路(再生電力導入、無炭素アノード、CCS導入、プロセス効率化など)をモデル化して、政策・投資誘導につなげる。

技術調査・評価、IAIが委託した報告書で、既存セルラインへのCCS(Carbon Capture & Storage)適用の技術的・経済的実現性を検討。

リサイクル/循環利用

リサイクル普及・啓発、スクラップ回収・再溶融技術の普及、リサイクル率向上促進、リサイクル材利用の最適化など。IAIによれば、全時代に生産されたアルミの約75%が現在も利用中。

“Can-to-Can Recycling” 推進、飲料缶のリサイクルループ(使用 → 回収 → 再び飲料缶)の指針策定、実績比較、政策支援。

廃棄物管理・有害副産物処理

Spent Pot Lining (SPL) 管理ガイダンス、電解セルライナの廃材(SPL)はフッ化物・シアン化合物等を含むためしばしば有害廃棄物扱い。IAIは持続可能な処理方式(処理・利用可能技術、新規用途、安定化手法など)に関するガイダンスを発行。

鉱山・資源開発の持続可能性

持続可能なボーキサイト採掘ガイドライン更新、採掘時・閉山後の環境影響、地域社会との関係、安全保健、環境モニタリングなどを含むガイドラインを策定。

政策連携・国際協力

Industrial Transition Accelerator(ITA)参画、IAIは、産業・運輸・エネルギー跨る脱炭素化支援組織「ITA」のリーダーシップ評議会に参加。IAIはアルミ産業部門の牽引役を担う

グローバル飲料缶リサイクル同盟(Global Beverage Can Circularity Alliance, GBCCA)、2050年まで飲料缶の100%リサイクル目標、2030年80%リサイクル目標を掲げ、インフラ整備・政策支援・技術開発促進を図る。IAIも設立メンバーです。

これらの施策を通じて、IAIは業界共通の環境基盤を整備しようとしています。

実績・成果・現状評価

次のとおりIAIおよび加盟業界が環境改善・低炭素化の方向でどのような成果を出しています。

IAIは技術ロードマップ提示・ガイドライン整備・リサイクル促進・報告制度設計・国際政策連携など、包括的なアプローチで環境対応を進めており、いくつかの実績も出てきています。

排出量トレンドと効率改善

2022年には、世界のアルミ産業のGHG排出量は約11.1 億トンCO2相当と報告され、前年度(2021年11.3 億トン)からわずかに減少。生産量が拡大している中での排出抑制が進んでいる。

リサイクル金属の比率上昇や効率改善、再エネ電力利用の割合拡大が寄与した。

エネルギー消費の観点でも、一次アルミ生産の全体工程(採掘~電解~鋳造)での平均エネルギー消費は 186 GJ/トンであるのに対し、再生アルミ生産では 8.3 GJ/トン(2019年)程度という比較が示されており、約95.5%の節減が可能。

加盟企業の目標設定・公開

IAI GHG Initiative の署名企業の多くが、2050年ネットゼロ目標を掲げ、2030年段階の中間目標やロードマップを公表しています。

リサイクル率・循環化実績

IAIは、「全時代に生産されたアルミの約75%が現在も使用中」という推定を掲げており、素材としての循環性の高さを示している。

飲料缶の全球リサイクル率は 71%とされており、アルミ缶は他の飲料容器と比べて循環性性能が高い。

ただし、地域別では回収率に大きなバラツキがあり、たとえば米国では 43% にとどまるというデータも紹介されている。

国際政策・連携実績

グローバル飲料缶リサイクル同盟(GBCCA)を通じて、政策支援、国際協調、回収制度整備、企業投資誘導などを推進している。

課題・限界・リスクと今後の展望

課題・限界

電力と地域差

アルミ電解工程における電力消費が最大の排出源であるため、使用する電力が再生可能エネルギーであるかどうかに大きく依存する。多くの地域では既存の電力網が化石燃料依存であり、再エネ電力の供給・安定性確保が難しい。

また、各国・地域で電力政策、電源構成、電力価格制度、制度的制約が異なるため、一律の低炭素移行を実現するのは容易ではない。

高コスト・技術リスク

無炭素アノード技術、カーボンキャプチャ・ストレージ(CCS/CCU)、セル設計改良などは研究開発・実証段階にあるものが多く、商業展開にはコスト・信頼性リスクが伴う。

既存の工場の改造や設備刷新には高い設備投資が必要であり、中小規模工場や発展途上地域では採算性に難しさがある。

リサイクルの制約

廃スクラップの回収率、混入汚染物質の除去コスト、合金混合・品質管理、輸送コストなどがリサイクル効率を制約する要因。

また、使用後製品(自動車、建材、電子部品など)からのアルミ回収率・分離回収プロセスを高度化する必要がある。

回収材を再び高品質用途(例:飲料缶用合金)に戻すための合金設計・分離技術も技術ハードルとなる。

制度的不整合・政策の逆風

国や地域によって環境規制、水質規制、廃棄物処理法令、排出取引制度、炭素税制度などが異なるため、統一的な業界ガイドラインを実践に落とし込む際に摩擦が生じる。

また、規制強化だけでなく、炭素価格の制度設計や補助金制度、グリーン調達政策、認証制度の整備が不可欠であり、これらが整わなければ技術移行のインセンティブが弱い。

報告透明性・信頼性確保

加盟企業が設定する排出目標や進捗報告の正確性・信頼性を担保する必要がある。数値操作の懸念、報告尺度の違い、国別電力起源排出強度の差異補正などが難題。

また、非加盟企業や中小企業が多い地域では「業界全体を網羅」する枠組みとはなり得ない。

投資資金確保・市場需要醸成

低炭素アルミニウム製品・認証アルミ材のプレミアム価格を市場が受け入れるか、あるいはグリーン調達制度などで需要が創出できるかがキーとなる。

銀行・投資家からの脱炭素対応資金アクセス、設備更新資金の確保が課題。

今後の展望・可能性

これら課題を踏まえつつ、IAI/アルミ業界が今後取るべき方向性・可能性として、以下が考えられます。

電力系統と再エネ供給網との連携強化

再生可能電源(風力、太陽光、水力、地熱、蓄電池併設型など)を導入可能な立地選定、新設工場立地誘導、グリーン電力調達制度(PPA等)活用。

電力網制約下での安定化技術(蓄電、需給調整、スマートグリッド連携など)と併せて導入を模索。

技術革新の支援と実証拡大

無炭素アノード、カーボンキャプチャ技術、セル設計最適化、電解効率改善、電流変調(たとえば最近報道された振動電流等による安定化技術など)などの研究促進。

公的資金・産業基金との連携、共同研究制度設計、リスク分担型モデル構築。

リサイクルインフラ強化とスクラップ流通最適化

回収インフラ整備(収集拠点設置、分別・前処理設備、物流合理化)支援。製品設計段階からの「リサイクルしやすさ」配慮(分解性、接合方式最適化、混合材料回避など)。回収材品質保証・認証制度設計→スクラップ市場での価値付け強化。

認証・ラベリング・グリーン市場構築

低炭素アルミ材、再生アルミ材、環境適正調達アルミ材に対する認証制度(第三者検証含む)を整備・普及。

グリーンメタル市場(たとえば LME のグリーン金属プレミアム構想など)との連携。

需要企業(自動車、家電、航空、建築資材等)との調達契約で低炭素アルミを優遇する制度設計。

政策連携・国際枠組み主導

IAI は今後も国際気候交渉や産業政策プラットフォーム(COP、ITA、世界経済フォーラム等)での発信力を強める可能性があります。

各国の炭素税・排出取引制度・環境規制設計に関与し、アルミ産業特性を反映した制度設計提言。

発展途上国や新興国地域への技術移転・支援プログラム設計、環境対応支援スキーム構築。

透明性強化と信頼性構築

加盟企業の報告を第三者検証付きにする、報告フォーマット統一、ガバナンス体制強化など。

非加盟企業・中小企業セグメントへの誘導プログラム設計、業界カバー率拡大。

外部ステークホルダー(NGO・研究機関・政策機関・市民社会)との対話・モニタリング体制構築。

これらを着実に実行していくことで、IAIはアルミ業界の脱炭素・循環移行を牽引する存在になります。

Q&A

まとめを兼ねてQ&Aをつくりました。参考にしてください。

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