中国のアルミなどグリーン生産と持続可能な国連環境問題プロジェクト

解説

アルミニウムなど(アルミ、鉛、亜鉛、リチウム)に関連して国連で中国が環境問題に取り組んでいることをご存知でしょうか?

国連関係の中国の環境関連プロジェクト「Green Production and Sustainable Development in Secondary Aluminium, Lead, Zinc and Lithium Sectors in China(略称:SESPプロジェクト)」について、目的・組織構成・主な内容・進捗/実績・課題の可能性などを詳しく解説します。

概要と目的

このプロジェクトは、UNDP(国連開発計画)と中国の(環境関係)省庁などの協力のもと、スクラップとしてのアルミニウム、鉛、亜鉛、リチウムの生産やリサイクルプロセスでの環境と健康への影響を低減して、持続可能な工業活動を促進することを目的としています。

特に、次のような有害物質/汚染物質への対応を重視しています。

「非意図的生成残留性有機汚染物質」 UP-POPs(Unintentionally Produced Persistent Organic Pollutants)

例としてダイオキシン類(PCDD/Fs)、ポリ塩化ナフタレン(PCNs)、六塩化ベンゼン(HCB)など。

BFRs(Brominated Flame Retardants:臭素系難燃剤)の問題

また、リチウムイオン電池、鉛蓄電池などの廃電池(battery)についてのライフサイクル管理(製造から廃棄・リサイクルに至るまでのすべての適切な管理)も含まれています。

このプロジェクトは、中国が批准・実施している「ストックホルム条約(Stockholm Convention)」の実施強化にも貢献することを目指しており、国家戦略・行動計画と補完関係にあります。

具体的な目標としては

1.中国の副非鉄金属産業(アルミニウム、亜鉛等)の政策・規制枠組みを強化し、UP-POPsやBFRsの排出を削減するガイダンス等を整備すること。

2.スクラップ金属や廃電池の回収・前処理・処分・リサイクルのサプライチェーン改善、健全で環境的に妥当な処理慣行導入すること。

3.一部の企業・工場を対象に、「ベスト利用可能技術/最良環境慣行(BAT/BEP)」をデモンストレーションとして導入し、(製造~リサイクル)ライフサイクル管理のモデルをつくること。

3.普及・拡大プログラム(National Replication Programme)を実施して、モデルを他地域・他企業に水平展開すること。 技術研修、普及活動、意識向上などを含む。

地球儀

    組織構成・運営

    このプロジェクトの主な運営機関および関与する組織は以下のとおりです。

    役割組織/主体
    実施主体(Implementing Agency)UNDP(国連開発計画)
    実行機関/国内パートナー(Executing Agencies)Foreign Environmental Cooperation Center (FECO) と中国の環境省(Ministry of Ecology and Environment, MEE)
    資金提供・支援元グローバル環境基金(Global Environment Facility, GEF)
    プロジェクトID等GEF プロジェクト ID: 10673、UNDP PIMS ID: 6492

    財政規模なども明らかになっていて、たとえば GEF からの助成金額や共資金(co-financing)などが設定されています。

    実施スケジュール・財政

    プロジェクトの承認

    2022年に GEF-7 の枠組みで正式承認。

    ・資金面

    GEF からの助成金(grant)は USD 15,750,000。共資金(co-financing)が USD 110,350,000。

    プロジェクトタイプは「Full-size Project(フルプロジェクト)」で、対象地域は中国。期間的には GEF-7 のフェーズ内です。

    主な活動内容

    以下が、このプロジェクトで想定/実施されている主要な活動内容です。

    1. 政策・法制度の整備

    UP-POPs/BFRs の排出を削減するための指導ガイダンスや規制枠組みの設計。

    スクラップ金属および廃電池の回収・処理に関する制度設計。

    1. モデル・デモンストレーション活動

    廃電池(鉛蓄電池およびリチウムイオン電池)の収集・前処理・条件付けなどの実証案件。

    アルミニウムと亜鉛の二次生産(secondary production)における BAT/BEP(環境のための最良の慣行)の導入。

    1. 普及・技術研修・意識向上

    技術研修、関係者向けの能力強化(capacity building)。

    意識向上イベント、情報共有、ナショナル・レプリケーション・プログラム。

    1. ライフサイクルマネジメント

    電池の収集から最終処分・リサイクルまで、全体の流れ(ライフサイクル)を管理できる体制の構築。

    進捗と実績(公開されているもの)

    このプロジェクトは新しく、承認されたのが 2022 年なので、2025年時点では完全な実績すべてが報告されているわけではありません。ただし、公開資料から以下のような情報が得られます。

    プロジェクトが正式に承認され、財政的枠組みが確立されている。

    プロジェクト設計段階では、PIF (Project Identification Form) の提出、PPG (Preparation Grant) を用いた詳細設計が行われており、技術的/制度的障壁分析、ステークホルダー参加、ベースライン調査などが進められている。

    また、同様の UNDP(国連開発計画)/GEF プロジェクトでのBAT/BEP(環境のための最良の慣行)導入、政策・規制の強化、意識向上トレーニングなどが効果を上げてきた実績があり、それをこのプロジェクトが参考モデルとしている。

    たとえば Secondary Copper プロジェクトでは非鉄金属産業における UPOPs 排出量削減、政府・地方自治体・企業間での技術仕様の制定と適用が進んでいます。

    プロジェクト文書中には、デモンストレーション事業を行う企業の選定、モデル事例(1社/複数社のアルミ・亜鉛生産、電池回収など)を通じて BAT/BEP(環境のための最良の慣行)技術の導入などが盛り込まれており、それによって全国展開の足がかりを作ることが意図されています。

    課題とリスク

    プロジェクト資料から明示されているもの、また一般的な類似プロジェクトで起こりうるものを含めて、以下のような課題/リスクが考えられます。

    1. 技術普及の遅れ・設備コスト

    BAT/BEP(環境のための最良の慣行) 技術やライフサイクル管理を導入するには初期コストが高い場合があり、中小規模の工場では資金・設備更新の制約が大きい。

    1. 制度・政策の執行力の問題

    政策や基準があっても、地方自治体や現場レベルでの実施・監視・違反への対応が弱い場合、実質的な排出削減につながらないことがある。

    1. 供給チェーンの複雑さ/非公式・非合法なスクラップ流通

    スクラップ金属や電子機器/電池などの廃棄物は、非公式な収集・処理ルートがあり、これらは環境規制を回避することが多い。このような非公式部門を管理し、適切な回収ルートに誘導することは困難。

    1. 持続性と拡大性(スケーラビリティ)の確保

    デモンストレーション成果を全国あるいは他地域に拡大する際に、技術、資金、人材、監督体制の面でバラツキが出やすい。

    1. 社会的・健康的な影響対応

    プロジェクトに関わる労働者及び周囲住民への有害物質の影響を減らす必要があり、これは技術だけでなく安全慣行・保護具・教育等が絡む。

    政策的インパクト/今後の展望

    このプロジェクトがうまくいけば、次のような効果が期待されます:

    中国の副非鉄金属リサイクル・再生産業における有害物質排出が大幅に減少すること。これにより環境汚染(空気、大気、土壌、水)、労働者の健康リスク、コミュニティへの悪影響が改善される。

    政府のストックホルム条約等国際環境条約の義務履行が強化され、日本を含む他国との協調的取り組みや技術共有のモデルケースとなる。

    廃電池(特に鉛・リチウム電池)処理におけるライフサイクル管理システムの整備が進み、循環経済(circular economy)政策の中で重要な役割を果たす

    デモンストレーション事例やモデル企業を通じて、BAT/BEP(環境のための最良の慣行) のノウハウ蓄積が進み、地方や中小企業への導入が容易になる。

    国内外への普及により、産業全体で「緑色生産/グリーン生産(green production)」の基準が高まる可能性。

    日本(企業)との関係/影響について

    公的に「このプロジェクトに日本企業が参加している」という情報は見つかりません。UNDP(国連開発計画)自体には日本政府や日本の国際協力機関が資金協力や技術協力で関わることがある(例:UNDP に対する日本からの拠出)ものの、本プロジェクトの実行段階で日本企業がデモパートナーとして公式にリストされているという公開情報は確認できませんでした。

    しかし、実務的な影響点としては次の事柄が想定されます。

    日本のリサイクル技術・環境技術を持つ企業(例:非鉄リサイクル装置、前処理技術を持つ企業)にとって、技術提案・協業の商機が生まれる可能性があります。

    また、日本の環境 NGO、産業団体、あるいは公的開発援助(JICAなど)経由での連携・知見共有があり得ますが、これも個別案件レベルでの検討が必要です(現時点では公表事例なし)。

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