アルミは強度がないし値段が高いの?同重量なら強度と価格で鉄と勝負できる!

アルミ板 解説

お問い合わせ頂いたり、とてもよく聞かれるのが「(鉄に比べて)アルミは強度がないし高いし使いづらい」ということです。

そんなことはありません。同じ重量であれば、価格も強度もアルミが不利ではありません。データなどをもとに詳しく解説します。

基本的な物性

密度

アルミニウムは約2.70 g/cm3。

一般的な鉄(炭素鋼)は7.85 g/cm3。

アルミは同じ体積で約1/3の質量となります。

引張強さ

6061-T6(汎用アルミ合金)の引張強さは約 310 MPa(代表値)。

ASTM A36(代表的な軟鋼)の引張強さは約 400~550 MPa(代表域)、降伏は約250 MPa前後。

弾性率(剛性)

アルミは約69 GPa、鉄(鋼)は約200 GPaです。同じ断面、形状だとアルミの方が約3倍たわみやすい(剛性で不利)ことになります。

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これが重要!同じ重量で比べると

材料設計でよく使う考え方で「質量を等しくした場合の強さ(強度当たりの重量効率)」=特性強度(specific strength)を比較します。

強度が中程度のアルミ(6061-T6)の特性強度は 引張強さ ÷ 密度 = 310 MPa ÷ 2.70 g/cm3で約114.8(MPa/(g/cm3))です。

鋼(A36、例として中央値450 MPaを用いる)の特性強度は、約450 MPa ÷ 7.85 g/cm3で57.3。

同じ質量で形状が自由に取れる(長さを同じ、断面を変えられる)条件では、6061-T6の“強さ/質量”は代表的なA36鋼の約2倍になります。

「同じ重量であればアルミのほうが強くできる」場合があります。ただし剛性は別です。

「アルミの値段は高い」は本当か?市場価格と実効コスト

市場価格の目安(マーケットベンチマーク)

LME(ロンドン金属取引所)でのアルミ相場は数千ドル/トンのレンジ(近年は変動)です。例えば 2025年だと約 2,500~2,800 USD/トン前後(日によって大きく変動)。

鋼(HRCや一般鋼材)の相場は地域・品種で幅があるが、数百~千ドル/トン(例:800~1,300 USD/トンなど)というレンジが多い。

単純に重量当たりの価格で見ると「アルミは鋼より高い(\$/kgで数倍)」のは事実ですが、エンジニアリングでは機能(強度・剛性・耐腐食性・寿命など)単位で比較します。

特性強度の観点から見る

アルミは同じ重量では、より高い強度を出せることがあります(例:6061の場合)。そのため「同じ強さを出すために必要な重量」を等しくしたとき、アルミを使って全体の重量を下げられます。よって、使用目的(軽量化で燃費向上や取り回し改善が重要な分野)ではアルミが経済合理性を持つことが多いです。

さらに重要なのはプレミアムと供給状況です。例えば輸入関税や地政学的要因でアルミのプレミアムが跳ね上がることがあります(2025年の米国事例など)。そのため「現場での材料費」は瞬間的に大きく動きます。最近の報道でもアルミのプレミアム急騰が取り上げられています。

剛性(たわみ)と構造設計上のトレードオフ

アルミの弾性率は鋼の約1/3なので、同じ断面形状や長さで比較するとアルミはたわみが大きく、剛性が必要な構造では断面を増やす(厚くする/断面2次モーメントを増やす)必要があります。結果として重量優位が相殺される場合もあります。

よって、設計上は「必要な剛性と強度、重量、加工性、接合方法、疲労」を同時に検討して材料を選ぶ必要があります。たとえば自動車や航空機では軽さと衝突エネルギー吸収、疲労挙動、コストを総合的に評価してアルミ合金が多用されています。

加工・接合・耐食・ライフサイクル「使いづらい」は本当?

加工性

アルミは切削・押出・成形が容易で、溶接も適切な工法を選べば問題なし。軽量部品を複雑形状で作りやすいのが利点です。

耐食性

アルミは表面に酸化膜ができて自然に腐食から守られます。ただし、塩害下や接触腐食には注意が必要です。塗装や陽極酸化でさらに保護ができて、長期的にはメンテナンス費用が下がる場合があります。

疲労・衝撃

鋼の方が疲労限は有利な場合がある。アルミの疲労挙動は設計で考慮する必要があります。表面仕上げや処理で改善が可能です。

環境・リサイクル(長期コスト観点)

アルミはリサイクル性能が非常に高く、リサイクル品は一次生産比でエネルギーを約95%節約できます(再生アルミは環境負荷が低い)。そのため長期的には循環価値(残存価値)が高く、TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)で優位になるケースがあります。

まとめ

鉄とアルミを同じ重量で比べれば、アルミは強度(特性強度)で有利になることが多い(約2倍の例も)。しかし剛性(たわみ)では不利なので断面設計が必要です。

材料の選定は(強度・剛性・重量・コスト・耐久性・加工性・環境) の総合判断が必要になります。用途ごとに最適解が変わります。

軽量化が第一目的(自動車、航空機、携帯機器、輸送機器)

アルミが有利と思われます。特に「同じ重量で比べれば強度面で劣らない」どころか有利になることも多い

高剛性が必要な長スパン構造(橋梁の主要部材/梁など)

鋼が有利(剛性と静的強度、経済性)。アルミだと断面拡大でコスト増につながることがあります。

耐食・メンテナンス低減が重要(海上構造、外装、腐食環境)

アルミに魅力があります。初期コストは高くてもライフサイクルで有利な場合もあります。

短期間で大量にコストを抑えたい(汎用建築の母材など)

鋼がコスト面で有利ですが、用途によってはアルミ採用で運用コスト低減(燃費、腐食、再販)を見込めます。

参考データ(本文で使った主な一次情報/推奨参照)

6061-T6 の物性(引張強さ、密度、弾性率) ? MatWeb / ASM データ。
https://asm.matweb.com/search/specificmaterial.asp?bassnum=ma6061t6&utm_source=chatgpt.com

ASTM A36(代表的軟鋼)の機械的性質(降伏・引張) ? 規格・材料データ。
https://www.solitaire-overseas.com/blog/astm-a36-steel-material-properties/?utm_source=chatgpt.com

アルミの市場価格・相場情報(LME, TradingEconomics)。(価格は変動するため常に最新値を参照)。
https://www.lme.com/en/metals/non-ferrous/lme-aluminium?utm_source=chatgpt.com

アルミのリサイクルとエネルギー節約(95%削減など)
https://www.aluminum.org/Recycling?utm_source=chatgpt.com

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